【社労士執筆】フレックスタイム制って本当に自由なの?
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執筆者
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長
寺島 有紀
フレックスタイム制って本当に自由なの?
フレックスタイム制を活用している、もしくは活用したいと考えている企業は多く、柔軟な労働時間制度と相性の良いリモートワーク環境の成熟に伴い、近年でもその流れは加速しているように思います。
フレックスタイム制とは?
フレックスタイム制とは、「1日の労働時間の長さを固定的に定めず、1か月~3か月以内の一定の期間の所定労働時間を定めておき、労働者がその所定労働時間の範囲で各労働日の労働時間を自分で決めることができる労働時間制度」のことです。
通常の労働時間制度では、1日の労働時間は8時間などと決められており、その日の業務が忙しくなかったとしても、8時間は会社にいなくてはなりません。
そのため、あらかじめ「明日は忙しいので絶対に11時間は働くことになる・・・」ということがわかっていても、所定の労働時間は8時間で、上回った3時間分については割増賃金が発生してしまいます。
これをフレックスタイム制度を使うことにより、従業員自身が、「今日は忙しくないから5時間働いたら帰ろう」「明日は11時間働こう」というように、毎日の労働時間を柔軟に自分で運用できます。
このように柔軟に日々の労働時間を決定して働いた結果、1か月の労働時間を集計して、予め定まっていた1か月の所定労働時間(例えば、160時間)を上回っていればその分残業代が発生し、下回っていれば賃金がその分控除されるといったような運用になるのがフレックスタイム制度です。
フレックスは管理しなくてもいい?
こうした面がフレックスが「自由に働ける!」と言われるゆえんではあるものの、「フレックス=自由」という印象ばかりが先行して、会社や経営陣から「フレックスは会社側も管理が楽、厳格な管理をしなくていい」と誤解されているケースも少なくありません。
しかしフレックスタイム制は、会社側が管理をしなくて済むような夢のような制度ではありません。
そのため時間外労働の管理や割増賃金の支給などの義務から解放されるわけではないのです。
むしろ固定的な労働時間制度の時よりも管理が難しいと感じられる場合も多いようです。
フレックスタイム制の時間外労働について
フレックスタイム制の場合、概念上一日ごとには時間外労働は発生しません。固定的な労働時間制の場合には1日8時間を超えた部分が時間外労働としてカウントされます。
ですが、フレックスタイム制の場合、1か月等の清算期間の法定労働時間からどのくらいオーバーしているかという月ベースでのカウントになります。
そのため、毎日11時間のハイペースで月の上旬の間は働いている、という方がいる場合でも、ただちに時間外労働としては確定しません。
勤怠管理システム上で見ていると時間外労働は発生していない状態が続きます。
しかし毎日11時間程度働いているような場合、中旬ごろから法定労働時間に達し、勤怠管理システム上でも時間外労働として計上されるようになります。
そのため、これまであまり管理していなかった場合、この時点で管理側の担当者も「あれ、すでに法定労働時間を超えて働いている方がいる。まずい、以後は全部時間外労働になるな・・・」といったことになりかねません。
このように、時間外労働が固定的な労働時間制の時よりもフレックスタイム制の場合、やや見えにくくなるのは事実です。
また、36協定の時間外上限をオーバーしないような管理も必要です。
フレックスタイム制であっても、「労働時間が過重となったり逆に過小となったりしている方がいないか?」「このペースで働いた場合に時間外労働がどの程度になるのか?」といったきめ細やかな確認は必要となります。
毎日時間外労働が積みあがっていくのが見えやすい固定的な労働時間制よりもその確認には管理側の慣れ・熟練や、制度の理解がない限りなかなか難しいと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
従業員側も時間管理が必要?
従業員自身も清算期間ごとに、計画的な時間配分が欠かせません。
従業員側も固定的な労働時間制度よりも自律的なタイムマネジメントが求められるのがフレックスタイム制なのです。
「フレックス」という言葉から従業員も会社もその運用には自由な印象を持っており、会社側から「従業員を管理したくないからフレックスを導入したい」といった声を聞くことは少なくありません。
しかしこのように、時間外労働の管理などから解放されるわけでは全くないのです。
ここにギャップがあるとフレックスタイム制を導入したはいいけれど、「なんか思っていたのと違う・・・」ということになりかねません。
実運用での注意点
実際にフレックスタイム制を導入していると言いながら、事実上「必ず8時間は働くことが暗黙の了解となっている単なる時差出勤制度」のような運用になっているケースも少なくありません。
また、極端に長いコアタイムの設定なども見られますが、フレックスタイム制の趣旨に照らして望ましくないとされています。
自社のフレックスタイム制への理解や管理体制が未熟な場合、このように法の趣旨と反するような運用を行うリスクもあります。
フレックスタイム制は、ある程度労務管理に慣れた企業が、その本質を理解して使うことで最大の効用が得られる制度と個人的には考えています。
安易な導入を行うことは避け、導入にあたっては専門家等のアドバイスを受けながら進めていくことをお勧めします。
打刻レス 勤怠管理サービス「ラクロー」